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「APIファーストの世界観を広げる」API開発ツールPostman、テクノロジーエバンジェリストが語るウェブ開発の未来
Postman Postman株式会社 テクノロジーエバンジェリスト 草薙 昭彦氏
Postman株式会社 テクノロジーエバンジェリスト 川崎 庸市氏

※インタビュー当時の役職

「APIファーストの世界観を広げる」API開発ツールPostman、テクノロジーエバンジェリストが語るウェブ開発の未来

API開発の生産性向上を実現するAPIコラボレーションプラットフォーム「Postman(ポストマン)」は、開発者やテストエンジニアに欠かせないツールとして世界中で使われている。その開発元であるPostman, Inc.(米サンフランシスコ)は、2023年4月に日本法人を立ち上げた。同社でプロダクトやAPI技術の啓蒙を担うのが、同社のテクノロジーエバンジェリストの草薙昭彦氏と川崎庸市氏。そのお二人に、日本における事業内容や今後の展望を伺った。

テクノロジーエバンジェリストが広げる“APIファースト”の世界観

「Postman」は、世界各国 3,000万人以上の開発者に使われる世界最大規模のAPI活用プラットフォームだ。日本におけるユーザー数は、約40万人超。製品の魅力と使い方を啓蒙し、ユーザー数を増やしていくのがテクノロジーエバンジェリストの役割だ。

草薙氏:

「私達はテクノロジーエバンジェリストとして、技術者や開発者と同じ目線で製品の特徴、使い方を伝えています。そのためにホームページで発信する導入事例コンテンツ作成、ユーザーイベントの企画運営、製品の日本語対応など幅広く担当しています」

川崎氏:

「ユーザーの方々に製品理解を深めてもらうための『Meetup』という勉強会も月に一度開催し、毎回オフラインで40名、オンラインで100名程度の方にご参加いただいています。他にも、実際にツールを使いながら行うワークショップも開催しています。そうした場に参加された『Postmanコミュニティ』のみなさんは、すでに1100人(2023年11月時点)を超えました」

二人の役職名が「エバンジェリスト」なのは、担当する業務領域がマーケティングの範囲を超えているからだ。製品紹介だけでなく、Postmanが実現していきたい「APIファーストの世界観」の浸透を本来のミッションとしている。

川崎氏:

「私たちの役割は製品の認知拡大だけではありません。ウォーターフォール開発が主流だった時代にアジャイル開発の考えが登場し、ビジネスや組織の在り方が大きく変わったように、『API』や『インターフェース』という考え方でビジネス環境に変化を起こしていきたいと思っています」

草薙氏:

「広めていきたい世界観を、私たちは『APIファースト』と呼んでいます。これはサービスの付属機能としてAPIを活用するのではなく、APIを前提にサービスや組織を作る考え方のことです。分かりやすい例は、Postmanのお客様でもあるPayPal。オンライン送金や支払いの処理が彼らの提供価値ですが、それらはすべてAPIを通して行われています。つまり、APIの出来がサービスの質や存続を左右する。そのような企業を日本でも増やしていきたいと思っています」

では、APIファーストになることで、企業やサービスの利用者にとってどのようなメリットがあるのだろうか。草薙氏は、レストランの例えを挙げて説明する。

草薙氏:

「API、つまりインターフェースは、複雑なものを抽象化します。例えば、レストランでお客さんがメニューを注文すると、厨房で行われている複雑な調理工程を知らなくても、料理は当然運ばれてきますよね。客は厨房をいちいち気にせず、美味しい料理を食べることに集中できる。これをインターネット上で再現するのが、APIです」

「この抽象化には、様々なメリットがあります。一つは今お話したように、ユーザーの使いやすさが向上すること。もう一つは、インターフェースの裏側を、提供側が柔軟に変えられることです。レストランであれば、料理の提供スピードを早めたければ、料理人を増やしてもいいし、機械を導入してもいい。企業の戦略や状況に合わせて裏側の工夫ができるわけです」

川崎氏:

「抽象化やインターフェースの究極の成功例は、iPhoneだと思います。様々なソフトウェアやシステムが裏で動いていますが、それらをユーザーにとって使いやすい形で提供できているのは、あのタッチデバイスがあるから。APIファーストでビジネスを構築するとは、つまるところiPhoneがタッチデバイスを作り込むのに似ています。ソフトウェア産業が活況するこの時代において、APIファーストは企業の競争力を左右する要素だと考えています」

ユーザーと向き合う姿勢がPostmanの強み

企業にとってその重要性が高まっているAPI。その開発をサポートするPostmanの強みやこだわりについて、2人は以下のように語る。

草薙氏:

「PostmanはAPI開発ツールとしての歴史が長く、おそらく世界で最も知られている存在です。ユーザー数も多く、その分、フィードバックもたくさん受けてきたので、カバーする機能の多さ、使いやすさは随一だと自負しています。創業者のアビナフ・アシュタナも『ユーザーの声に耳を傾け、改善を積み重ねたことがPostmanの強みだ』と語るほどです」

具体的にはどのようにユーザーの声に耳を傾けているのだろうか。

川崎氏:

「ユーザーからのフィードバックを受け取るための仕組みを様々なチャネルで提供しています。コミュニティサイトやユーザーインタビュー、先ほどお話したMeetup、SNSの口コミなどからも声を集めています。特徴的なのは、ユーザーと直接コミュニケーションを取りながら、マーケティングと技術開発との間を行き来する人が、他のソフトウェア企業に比べて多いことです。

草薙氏:

「統計を用いてユーザーの声を計測しているのもポイントです。新しい機能を実装した際、どの地域の人たちがどのような頻度で使っているかなどの情報を細かく集め、全社員が見られるように共有しています」

成功事例を作り、メディアやロビーイングで「考え方」を変える

ユーザーの声に注意深く耳を傾け、プロダクト開発を行ってきたPostman。2023年4月に日本法人を設立以降、Meetupやヒアリングによって、日本のユーザーのニーズを深掘りしてきた。今後は、それらの情報を取り組みに生かしていきたいと語る。

草薙氏:

「イベントやヒアリングによって、ユーザーのニーズが多様であることが分かってきました。個人の開発効率化やチームの開発プロセスの構築、他社APIの活用、自社APIの公開など、それぞれのニーズに合わせて、アプローチの仕方を変えていきたいと思っています。Meetupのトピックや構成も最適化していく予定です」

川崎氏:

「今後は、Postmanを使って成功した企業の事例をたくさん作っていきたいですね。企業のビジネスシナリオに合わせた導入・活用のサポートなどを提供し、生産性の向上やビジネスの成長にも寄与していきたいと思います」

冒頭で触れた「APIファーストの世界観」を広げるための施策もますます展開していく予定だ。

草薙氏:

「APIファーストの思想を知り、実践してもらうのは簡単ではありません。人の考え方を変えるということですから、営業やマーケティングだけではない様々なアプローチをしていきたいと思います。メディアを通じた定期的な情報発信、公的機関へのアプローチなど、従来の発想を超えた活動も必要になってくるはず。そのためには人材が足りないので、チームを大きくしていきたいです」

Postmanの日本展開を担う人材採用を強化

日本法人の拡大を目指し、採用を強化していくPostman。働く上でのやりがいや魅力は「ユーザーとの距離の近さ」と「裁量の大きさ」だと、二人は言う。

草薙氏:

「ユーザーの反応を直接得られるのが、醍醐味です。イベントやMeetupに集まってくださる熱心なユーザーから、製品の良さを教えてもらったり、フィードバックをもらえたりするのは本当にありがたいこと。励みにもなります」

川崎氏:

「まだ小さな組織だからこそ、裁量が大きいのも魅力です。思いついたアイデアをすぐに実行して、PDCAを回すことができます。この先どのように日本で展開していくかは、社員一人ひとりの動きにかかっているんです」

最後に、入居しているEGGの魅力やその空間の使いやすさについても聞いた。

草薙氏:

「まず、おしゃれなところがいいですね。QOL(クオリティー・オブ・ライフ)が上がるというか、リラックスして仕事ができます。企業の方やイベントに来てくださった方に良い印象も持ってもらえます」

川崎氏:

「用途に合わせて様々なスペースを使えるのが気に入っています。カフェのような空間もあるし、会議室の種類も豊富。あとは、EGGさんが主体となって、月に何度か他の入居企業の方々とコミュニケーションが取れる機会があるのもありがたいです。外資系のテック企業やSaaS企業が多く、Meetupにも登壇してくれるなど、仲良くさせていただいています」

API活用は世界的な潮流となりつつある。グローバルIT企業との競争に遅れを取らないために、APIファーストな日本企業を増やしていくことができるか、Postmanの今後に期待したい。

取材・文:佐藤 紹史
編集:岡 徳之
撮影:伊藤 圭

草薙 昭彦氏

東京大学大学院工学系研究科電子情報工学専攻修士課程修了。サン・マイクロシステムズ、オラクル、EMCを経て近年は外資系ITスタートアップでサービス導入や啓蒙活動に従事。デジタルツインやデータビジュアライゼーションに関心があり、制作した交通デジタルツインアプリ「Mini Tokyo 3D」は数々の賞を受賞。シンガポール在住。

川崎 庸市氏

米国ジョージア大学卒業後、テック系スタートアップ、ヤフー、マイクロソフト、ZOZOにてさまざまなエンジニアリングロールに従事。2023年6月より現職。

サンフランシスコに本社を置くPostmanの日本法人として2023年に設立されました。Postmanは世界をリードするAPIプラットフォームで、フォーチュン500企業の98%を含む3,000万人を超える開発者と50万の組織で利用されています。Postmanは、APIライフサイクルの各ステップを簡素化することにより、世界中の開発者や専門家がAPIファーストの世界を構築できるよう支援しています。またPostmanは、コラボレーションを効率化し、ユーザーがより優れたAPIをより迅速に開発することを支援します。

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