2022年5月25日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」が主催する「Founders Night Marunouchi vol.39」を実施しました。(過去のイベントレポートはこちら)。

このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。

今回ご登壇いただいたのは、株式会社Kids Public(キッズパブリック)代表の橋本直也さんです。

同社は妊娠や出産・子育てに関わる人すべてが、身体・精神の両方で健康に過ごせる社会の実現を目指しています。展開するオンライン医療相談サービスは、医師への相談が24時間365日可能です。

「日本は国民皆保険をはじめとして『世界一』医療の制度が整っているといっても過言ではありません」と橋本さんは言います。実際、日本の男女平均寿命は世界一の長さです。そうした中で、橋本さんは“ある課題”を感じたことから、起業の道を選びました。橋本さんが解決したい課題とは何なのでしょうか。また医療制度が整った日本で、医療事業を展開することの難しさややりがいについても、お話を伺いました。

モデレーターを務めたのは、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志と運営担当の鈴木七波です。

 

起業のきっかけは、小児病院で出会った1人の子ども

橋本さんが起業の道を選んだのは、小児科医として働いていたときのある出来事がきっかけでした。

橋本「ある日の夜、救急外来に3歳の女の子が救急車で運ばれてきました。足を見たら、通常の2倍くらいに腫れていて、骨折していました。付き添いで病院に来ていた母親に経緯を聞くと、驚くことに『私がこの子の足を折りました』と言ったのです」

子どもを育てることには、さまざまな不安やストレスが伴います。それらが限界を超え、子どもの足を折ってしまったというのです。それは橋本さんにとって、とてもショックな出来事だったと話します。

橋本「この出来事をきっかけに、『この子が骨折しなくても良い社会にしたい』と強く思うようになりました。医師の仕事は患者の骨折を治すことですが、その奥にある根本的な課題の解決に取り組みたいと考えたのです。

そこでまずは大学院へと進学し、公衆衛生学を専攻しました。子どもの健康を守るために、親の孤独や社会経済的な格差を解消する重要性について研究しました」

大学院での学びを活かして開発したのが、子育ての悩みをスマホで小児科医に相談できる「小児科オンライン」と、同じくスマホで妊娠や出産の悩みを産婦人科医・助産師に相談できる「産婦人科オンライン」です。橋本さんは、このサービスの特徴を大きく二つに分けて説明します。

橋本「一つは誰でも気軽に、親が抱く不安や孤独について相談できる点です。『この症状の対処法がわからない』『すぐに病院に連れていったほうがいいのか判断できない』などの不安を、スマホを通していつでも、無料で相談可能な状態を作ることで、その解消をサポートしています。

もう一つは、相談相手が全て小児科医、産婦人科医、助産師という専門家である点です。そうしたサポート体制が、利用者の満足度95%以上という数字にもつながっていると考えています。


             〈株式会社Kids Public代表 橋本直也さん〉

橋本「私たちの事業における強みは、『小児科オンライン』と『産婦人科オンライン』それぞれのサービスの代表が医師であることです。現場で感じていた課題からサービスを立ち上げ、どうすれば医師や助産師の方々がよりコミットメントしてくださるかを考え、サービスの内容に反映できます。

具体的には、やりがい、学び、報酬の総量を維持することが重要と考えています。健康への貢献についてエビデンスを学会や論文で発表することは医療者のやりがいに繋がります。また、登録する医療者の中でも情報共有できる場を作り、学びが生まれる仕組みを作っています。そしてここはもう少し水準を上げていきたいところですが、ボランティアではなく報酬を支払っています。また、医療者の採用の際も、知識や経験の豊富さだけでなく、妊娠、出産、子育ての不安に寄り添うという事業目的への共感があることを採用の条件にしています。」

 

医療制度が整った日本で、“あえて”医療サービスをやる意義と難しさ

橋本さんいわく、日本の医療制度は「世界一と言っても良いくらい」整っていると言います。

橋本「まず世界と比べてユニークなのは『国民皆保険』です。たとえばアメリカでは、救急車を呼んで10数万円の請求が後からくることもあります。日本では無料です。国民皆保険によって医療へのアクセスが経済状況によらず平等に保たれています。さまざまな要因が複合的に関わっていると思いますが、そのような理想的なシステムのもと、日本は世界で最も男女平均寿命が長い国にもなりました。

その一方で、日本の親子関係や子どもの精神面に目を向けると、多くの課題があります。たとえば、令和2年度の虐待の報告数や児童・生徒の自殺数は、現在過去最悪の数字になっています(※)。平均寿命が長いだけではなく、心理・社会的な健康も実現したい。現在の医療制度ではサポートしきれない親の孤立解消や、子どもの心理・社会的な健康をサポートできる点に、Kids Publicの存在意義があると思っています」

※参考データ:令和 2年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数児童生徒の自殺対策について

現在の医療制度では補いきれない課題の解決を目指す同社。事業を運営するうえでの苦労は「マネタイズ」にあるといいます。

橋本「国民皆保険などの制度も影響し、日本に暮らす人たちは『医療は無料、もしくは安価に受けられるもの』と感じているはずです。その上で、私たちのようなサービスの利用者からお金をいただくのは、決して簡単ではありません。そこで私たちは、ユーザーは無料とし、導入いただいた自治体や法人に委託料をお支払いいただくビジネスモデルを採用しています」

とはいえ「自治体や法人にサービス導入の予算をつけてもらうこともまた容易ではない」と、橋本さんは言葉を続けます。予算をつけてもらいやすくするためには、サービスを導入することで得られる成果や、そのエビデンスを示すことが必要です。Kids Publicではこれまで、実証実験や学会、論文発表を積極的に行ってきました。

橋本「たとえば、神奈川県の横浜市で実施したケースでは、利用者から皮膚の不調に関する相談がきたときに、家でできるケアや適切な受診のタイミングを伝え、アトピー性皮膚炎を予防できるのではないかと仮説を立てました。その結果、実際に子どもたちのアトピー性皮膚炎が13%減ったのです。この結果は、2022年2月に英文論文では発表されています。

また、企業における女性活躍推進策として、社員の中での月経や婦人科疾患の理解度への影響も評価しました。パソナさまに導入いただいたときのことです。社員の方々を産婦人科オンラインを『使うグループ:介入群』と『使わないグループ: 対照群』に分け、それぞれの社員にアンケートを取りました。結果として、『月経困難症の正しい知識を持つ人の割合が、介入群では開始時67%から終了時72%へ増加しました。一方、対照群では73%→67%へ低下していました。』

これらの工夫や実績の積み重ねが、厚生労働省による自治体がサービス導入する際の費用を政府が半額補助する制度の立ち上げなど、新たな動きにもつながっています」

信頼や実績を着実に積み上げるKids Public。橋本さんは、今後どのような展望を見据えているのでしょうか。

橋本「日本には約1,700の自治体がある一方で、私たちのサービスはまだ32箇所でしか導入されていません。これから導入事例を増やしていくとともに、日本全国の自治体に使っていただけるような存在になりたいと思っています。

そのためには、Kids Publicのサービスを活用することで、市民や従業員をはじめとした利用者がより健康になったと言えるだけの、エビデンスや成果をより積み重ねていく必要があります。今後はよりサービスの開発や改善に力を注ぎ、その品質をより高いものにしていきたいです」

▼当日のセッション
『~生まれ来るすべての子供たちへ~『母も子も守るオンライン医療相談』』

★次回のFounders Night Marunouchiは、6月27日(月)に開催予定です。初めての方でも大歓迎です!どなたでも無料でご参加頂けますので、こちらよりお気軽にお申込みください。

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●過去のイベントレポート
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