2021年6月9日(水)、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」にて「丸の内フロンティア定例会」を開催しました。(前回のイベントレポートはこちら )。

未来の産業をけん引するスタートアップを創出するには、何が必要なのか──。

今回は「これからの日本のスタ-トアップが大きな成長を実現させるには?」をテーマに議論が交わされました。登壇したのは、上場の前段階に差し掛かるレイターステージからマザーズ上場後、比較的まだ事業規模の大きくないポストIPOのスタートアップを対象にリスクマネーや経営知見などを提供するグロースファンド「THE FUND」を運営する、シニフィアン株式会社共同代表の朝倉祐介さん、そして、2011年に東証マザーズに上場した東大発ベンチャーであり、「イメージングAI」の研究開発を行う株式会社モルフォ代表取締役社長の平賀督基さん。モデレーターは、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志が務めました。

今回のイベントでは、日本におけるスタートアップ市場の変化をはじめ、Post-IPO後のスタートアップが継続して成長するためのヒントなどが語られました。

 

元ミクシィ代表がIPO後のスタートアップを支援する理由

イベントの冒頭、各社の紹介とともに、創業経緯について2人から語られました。

東京大学在学中に、携帯電話向けミドルウェアを開発する株式会社ネイキッドテクノロジーを立ち上げた朝倉さん。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ネイキッドテクノロジーに復帰し、同社代表に就任。2011年に株式会社ミクシィに売却後、代表取締役社長兼CEOに就任しました。当時はSNSサービス「mixi」の業績が悪化していた状況でしたが、M&Aによる新規事業の取得やスマホアプリゲーム開発の強化などにより、業績を回復させました。

朝倉「上場時のミクシィは時価総額2000億円だった一方で、私が代表取締役に就任したときは約180億円まで下がっていました。SNS事業は構造的な赤字に陥っており、目先の改善だけではどうにもならなかった。思い切って別の事業に勝負をかけるか、清算するしかない。短期的な改善は見込めないとわかったからこそ、スマホゲーム事業や新規事業などに軸足を思い切って変えたことで、再成長フェーズに移行することができました」

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ミクシィの社長を退任後、朝倉さんはスタンフォード大学客員研究員を経て、2017年にシニフィアン株式会社を創業。「未来世代に引き継ぐ産業創出のために」をテーマに掲げ、THE FUNDの運営をはじめ、スタートアップの成長支援を行っています。

朝倉「日本はレイター・Post-IPO期において、リスクマネーや経営知見が十分に提供されていなかったと思います。米国と比較しても、レイターへの投資比率が少なく、継続成長するための支援も足りない。ここを整備すれば、レイター・Post-IPOのスタートアップをシームレスに支えられ、構造的な課題を解決できるのではないかと思い、創業しました」

 

イメージングAIで、海外メーカーとの協業を進めるモルフォ

もともと、東京大学で画像処理やコンピューター・グラフィックスの研究を行っていた平賀さん。東大発ベンチャーとして2004年に設立された株式会社モルフォは、画像解析と人工知能が融合した“イメージングAI”に特化した研究開発型企業です。

2006年に初めて静止画手ブレ補正技術 「PhotoSolid」がNECの携帯電話に採択され、2007年には株式会社NTTドコモと資本提携を実施。2009年には累計ライセンスが1億円を突破し、順調規模を拡大していきました。ついに、2011年には東証マザーズへの上場を果たしたものの、その直後に売上が下がっていき、苦労した経験を平賀さんは語ります。

平賀「2011年〜2012年にかけて、iPhoneやGalaxyなど海外メーカーのスマートフォンが国内の市場シェア取るようになり、当社のお客様である携帯会社の売上も落ち込みました。その結果、我々の売上も落ち込み、次の戦略を考えなければいけなくなりました」

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その後、モルフォは海外展開に注力。2013年に韓国支社を設立後、現在は米国や中国、台湾、フィンランドにも子会社があります。ディープラーニング推論エンジン「SoftNeuro」も発表し、名だたる海外大手メーカーとの協業を進めてきました。

2020年は、新型コロナの影響や取引先のHUAEIが米国の制裁を受けたため、同社の業績にも影響があったといいます。しかし、カメラや画像AIは車載やドローン、セキュリティなどさまざまな業界で同社の技術に対するニーズは拡大していると、平賀さんは語ります。

平賀「変化が激しい業界であるため、走り続けないと淘汰されます。日本企業の競争力も低下している。だからこそ、新しいビジネスモデルや製品開発だけを模索するだけでなく、他の企業とともにオープンイノベーションで価値創出を行っていきたいです」

 

右肩上がりで成長する国内スタートアップの資金調達額

イベントの後半では、「これからの日本のスタ-トアップが大きな成長を実現させるには?」というテーマに沿って、パネルディスカッションが行われました。特に議論が盛り上がったのは、「IPO後におけるスタートアップの成長」についてです。

朝倉「日本のスタートアップ資金調達額は、2012年から右肩上がりとなっています。1982~1987年における米国のスタートアップ資金調達額は年間45億ドルなので、ようやく日本もその水準に追いついてきました。産業をけん引するスタートアップを創出するためには、起業家の絶対数を増やすほか、M&AやIPO後に継続成長するための支援も必要です。

マザーズの新規上場数も増えている一方で、上場時に高騰した初値を株価が上回らないことも多い。なぜならアセットクラスの都合上、IPO後もVCが継続支援することは難しいうえに、長期保有を前提とする機関投資家の投資対象にならない水準の時価総額規模に留まる会社が多いからです。結果、目先の株価や業績の上がり下がりばかりに目が向きがちな投資家が集まりがちになります。中長期の視点がないため、スタートアップが思い切った投資や挑戦をしづらく、新産業創出のボトルネックになってしまう可能性があります」

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平賀さんは朝倉さんの意見にうなずきながら、モルフォでの実体験について語ります。

平賀「モルフォの株主は個人投資家が中心です。株主構成でみると、代表の私が約10%、デンソーさまが約5%、あとは機関投資家や社員など。その他の70~80%程度は、個人投資家となります。朝倉さんがおっしゃるように個人投資家は短期的な業績を気にされることが多いため、あまり要望を聞いてばかりいると中長期的な戦略が立てられなくなります。

モルフォは昨年、上場以来2度目の赤字決済で、今期も赤字を見込んでいます。コストカットや人員削減を行えば黒字にすることはできますが、それでは中長期的な成長が見込めない。赤字であったとしても、将来に向けた投資を行う考え方を大事にしています」

Post-IPO後の資金調達に関する難しさが語られる中、朝倉さんは「一方で、状況は変化しつつある」と強調します。東証マザーズにおけるパブリックオファリング(公募増資)は2017年に3件だったものの、2020年には6件と倍増していることを挙げます。

朝倉「特徴的なのは、2017年のパブリックオファリングは国内で資金調達をしていましたが、2020年は全て海外市場のみを対象としていることです。あまり時間をかけずにできる「ABB(アクセラレーティッド・ブック・ビルディング)」がマザーズ上場企業の鉄板の手法として定着しつつあり、Post-IPOに対する資金提供もだいぶ進んできました。

また、上場前ではありますが、2021年6月に発表された株式会社SmartHRの資金調達も印象的です。THE FUNDも出資しておりますが、今回のラウンドでは未上場と上場後の継続成長を支援する米国の投資家が中心となり、156億円という規模の金額を調達しました。全てのスタートアップが必ずしも上場前に大きく資金を調達していなければいけないわけではありませんが、産業をけん引するスタートアップになるためには、SmartHRのように戦略的に資本政策を講じることも今後重要になると思います」

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既存事業の成長に取り組みながら、新規事業を生み出すには

産業をけん引するスタートアップへと成長するため、戦略的な資金調達を行うだけでなく、新規事業も生み出していけるような組織づくりも求められます。次に、平賀さんからモルフォでの組織づくりにおける課題点が語られ、話が展開していきました。

平賀「モルフォでは、将来大きな利益をもたらすかもしれないと思う取り組みに20%の時間を費やすGoogleの『20%ルールを』導入したり、社内合宿で社員に経営理念を考えたりしてもらうなど、自発的に手を挙げて実践する取り組みを行っています。しかし、まだまだ受け身な印象も多く、もっと積極的にチャレンジしてほしいと思うことが多いです。新規事業にも取り組む場合、どのように社員を引っ張っていけばいいか難しいと感じています」

この課題に対して、朝倉さんは「社員を引っ張る必要はないと思います。“混ぜるな危険”ではないが、既存事業の担当者に新規事業をやらせないほうが良いかもしれない」と語ります。既存事業と新規事業は求められる能力や風土が異なる部分が多く、ミクシィ時代には新規事業部門と既存事業部門のオフィスを分けようとしたことまであったそうです。

朝倉「新規事業を作れるのは、与えられて実行するのではなく、誰にも頼まれてもいないのに自ら使命感を持って事業に取り組むアントレプレナーシップを持った人材です。そういった意識を持たない社員を変えるのは難しい。そのため、新たに採用をするか、もしくは新規事業には社長自身が主体的にコミットすることなどが求められると思います。

例えば、印刷・広告のシェアリングプラットフォームを提供するラクスル株式会社は印刷通販の価格比較サイトサービス『印刷比較.com』から始まり、物流のシェアリングプラットフォーム『ハコベル』、運用型テレビCMサービス『ノバセル』など複数の新規事業を展開しています。どれも立ち上げフェーズは社長がコミットし、成果を上げていましたね」

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後半では参加者からの質問が投げかけられ、事業の相談や意見交換が行われました。最後に、両者からスタートアップに向けたメッセージが送られ、イベントは幕を閉じました。

朝倉「社会課題を解決し、新たな産業を創出するプレイヤーが輩出できなければ、世の中の信認を得ることはできません。だからこそ、成功事例を増やし、スタートアップの取り組みを日本に根づかせ、多くの起業家を生み出すようなサイクルを作っていきましょう」

平賀「日本の産業を盛り上げるためには、大企業はもちろん、スタートアップも関わりながら相互作用で良い影響を与えていくことは必須です。ぜひ我々にお声がけいただいたり、お聞きいただいた企業同士で連携したりしながら、頑張っていきましょう」

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