2020年11月4日、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi」を実施しました(前回のイベントレポートはこちら)。このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者から学びを得るもの。

今回登壇いただいたのは、フラー株式会社 代表取締役会長の渋谷修太さん。同社は、アプリの利用データ分析や、アプリの開発支援といった事業を展開しています。

2017年に同社は渋谷さんの出身地でもある新潟にオフィスを開設。今年の6月には、渋谷さん自身が新潟にUターンしただけでなく、スタッフも続々と新潟に拠点を移すなど、地方でのビジネス展開にも力を入れています。

なぜ、ITベンチャーである同社は地方に注目しているのか。そして、これから地方で何を目指すのか。Peatix Japan 取締役 藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志がモデレーターを務め、同社が見据える展望を伺いました。

 

幼馴染たちと起業。強い信頼関係が、事業成長の鍵に

 

子どもの頃からゲームが好きだったという渋谷さん。プログラミングを勉強するために、国立長岡工業高等専門学校(通称:長岡高専)に進学します。実は、高専に入った頃から、今の起業家としてのキャリアを見据えていたのだそう。

「高専で気づいたのは、自分よりプログラミングが上手な人は世の中にたくさんいるということです。それに、僕はパソコンの前にじっと座っていることが得意ではないとも気づきました(笑)。一方で、人前で話したり、一つの目的に向けて人をまとめるのは得意だなと。であれば、エンジニアを巻き込んで会社をつくり、一緒に事業を行いたいと考えたのです」

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フラー株式会社 代表取締役会長 渋谷修太さん

そこで、高専から筑波大学に編入学し、経営学を専攻。卒業後はグリー株式会社に入社し、マーケティング事業に従事します。その後、2010年代に入りスマートフォンが普及しはじめたタイミングで、この波を生かした事業を行おうと起業を決意しました。

そんな同社の組織体制には、ある特徴があると渋谷さんは言います。それは、共同創業者の櫻井裕基さんをはじめ、メンバーに渋谷さんの小・中学校、高専時代の幼馴染が多いこと。

「よく友人と起業すると、馴れ合いで上手くいかなくなったり、関係性が悪くなったりすると聞きます。でも、僕は真逆だと思っていて。ビジネスの立ち上げとチーム組成を同時に行うのって、本当に大変なんですよね。その点、幼馴染であればスキルセットも性格もわかっている。心理的安全性も高いので何でも言い合えて、コミュニケーションコストも低い。組織づくりにおいて、メリットのほうが多いと感じています」

設立初期に資金調達が難航し、経営が危機に陥ったときも、仲間同士の強い信頼関係が乗り越える鍵になったと渋谷さんは語ります。

「当時は『来月は給料ないかもしれないね』と言い合うほど、危機的な状況でした。でも、『一緒にビジネスをし続けるために、何でもやるぞ』という気持ちがありました。もともとの友人同士が集まっていたからこそ、一致団結して行動できたのだと思います。

最初はアプリ制作サービスからはじめましたが、そこから『App Ape(アップ・エイプ)』という法人向けデータ分析サービス、そこからさらにWebサイトをアプリに自動変換する『Joren』というサービスを出したり…とにかくピボットを繰り返しました。目の前のことに愚直に取り組んだ結果、徐々にビジネスは軌道に乗っていきましたね」

現在同社は、二つの軸で事業を展開しています。一つは、どのアプリがいつ、どのような属性のユーザーに、どのくらい使われているかといったデータを提供するアプリ分析支援事業。事業の柱となっているApp Apeは、これまで国内外で5000社以上の企業に利用されています。もう一つは、アプリを含めたプロダクトの企画、開発、運用から分析までを一気通貫して支援する「共創事業」です。これまでNHKや任天堂株式会社、株式会社スノーピークといったさまざまな企業のプロダクト開発をサポートしてきました。

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いずれ、地方から世界へとビジネスを広げていきたい

 

同社が今力を入れているのが、地方企業や起業家の育成、支援を中心とした地方でのビジネス展開です。その理由を、渋谷さんは「常に10年先を見据えてた結果」と語ります。

「10年前は海外でスマホが急速にシェアを拡大しているデータを見て、アプリの会社をつくろうと決めました。今、その時と同じ大きなような覚悟が生まれている。コロナによる人々のライフスタイルの変化が、次の10年を決めると思ったからです」

渋谷さんによれば、 新型コロナウイルスの影響でリモートワークが広がったことで、米国ではデンバーやシアトルといった地方に若者が集まりだしていると言います。

今後、同様の流れは日本でも加速し、地方に人が集まりはじめるのではないか。そうすれば地方発のビジネスが数多く生まれるようになるはず。渋谷さんはそう予想し、地方発ビジネスを生み出すエコシステムをつくるため、地方に拠点を移したといいます

数ある地方のなかでも新潟を選んだのは、自身の出身地であることだけではありません。新潟の人口は日本で15位(2020年 )、県内総生産(名目GDP)も16位(2019年 )。高すぎもせず、低すぎもしない「平均的な」県である新潟でモデルを確立できれば、日本全国に展開できる。その実験の地として新潟がとても適していると考えたからだそうです。

では、実際に新潟でどんな事業を行っているのか。現在手掛けているいくつかの取り組みのうち、イベントではいくつかピックアップして語っていただきました。

「一つは、地元企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援です。地元の老舗企業は今世代交代がおこっており、30~40代の若手経営者が増えています。例えばスノーピーク代表取締役社長の山井梨沙さんや、ハードオフコーポレーション代表取締役社長の山本新潟の老舗企業の若きトップと組んで、DX化を促進。地方企業のさらなるビジネス拡大を応援したいと考えています」

 

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また、渋谷さんがもう一つ力を入れているのが、新潟発の起業家の支援です。2020年9月には、新潟ベンチャー協会の代表理事に就任。同協会には、新潟出身の先輩起業家だけではなく、ベンチャーキャピタル、新潟大学もパートナーとして加わり、新潟発のビジネスを後押しするエコシステムの構築を目指しています。

最後に、渋谷さんから地方ビジネスの可能性が語られ、イベントは締めくくられました。

「今までのビジネスは都市への一極集中でした。でも、都市は物価もあがり、競争も激しくなっている。都市一極集中ビジネスは徐々に立ち行かなくなるでしょう。なにより新型コロナウイルスの影響で、その変化はどんどん加速するはずです。

新潟でビジネスを広げつつ、今後はほかの地方都市とも連携して、東京を介さずにローカルtoローカルのビジネスを生み出していきたいと考えています。最終的には、海外の地方都市にもこのモデルを適用し、グローバルにビジネスを展開していきたいですね」