ベンチャーが独自の先端技術とアイデアを生かし、世界で活躍するためには何が必要か──。

10月23日に行われた丸の内フロンティア定例会では、「ニューノーマル時代に向けたテクノロジードリブンベンチャー飛躍のヒント」をテーマに、登壇者が熱い議論をかわしました。同イベントはベンチャーと大企業の交流を促進する機会として、オープンイノベーションプラットフォーム「TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)」と共同で開催しています。

今回登壇いただいたのは、深層学習技術をさまざまな業界に実装している株式会社Preferred Networks 執行役員 最高業務責任者の長谷川順一さん、与信審査がネックとなって金融サービスを利用できずに自動車を購入できなかった人々に、FintechとIoTを駆使した新しい自動車ローンを提供するGlobal Mobility Service株式会社 代表取締役 社長執行役員CEO 中島徳至さん。いずれも独自の先端技術とアイデアを生かし、グローバルに活躍するベンチャーです。

モデレーターは東京21cクラブメンバーでもあり、テクノロジードリブンベンチャーの起業支援やエンジェル投資を行うTomyK Ltd.代表 鎌田富久さん。

今回のイベントでは、両社を支える最先端技術の概要や、大手企業と協業をすすめる際のポイントを語っていただきました。

 

「買いたくても買えない」人に、FinTech×IoTで車のローン機会を提供するGlobal Mobility Service

 

イベント冒頭、各社のビジョンと、それを支える最先端技術について紹介されました。

自動車製造、サービス関連領域において3度の起業経験がある中島さん。これらの事業を行うなかで、車を買いたくても自動車ローンを活用できない人があまりにも多い現実に課題を感じるようになったと言います。

中島さん「新興国では、生活費を稼ぐために車両を所有してタクシードライバーや配送ドライバーとして働きたい人が数多くいます。しかし、返済能力があるにも関わらず、自動車ローン審査の非通過率は70~90%と非常に高い。これは先進国も例外ではありません。例えば、日本でも転職したての方やシングルマザーなどはローンが組みづらい状態に置かれており、非通過率は30%といわれています」

 

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そこで中島さんは、2013年にGlobal Mobility Serviceを創業。働く意欲のある人が自動車ローンを組めるようにするために、2つの独自技術を活用したサービスを提供しています。

一つ目はIoTデバイス「MCCS(Mobility-Cloud Connecting System)」です。同デバイスを車両に装着すれば、万が一返済が滞った際にエンジンの遠隔起動制御が可能に。支払い後には直ぐにエンジンの再起動が可能になります。滞納を防ぎ、金融機関が安心してローンを提供できる環境を整えました。

 

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二つ目の技術は、MCCSを搭載した車両からのセンシングにより集められた大量のデータを高速に分析できるプラットフォーム「MSPF(Mobility Service Platform)」です。MCCSから送られてきたデータをもとに、車両保有者の働きぶりを可視化。教育ローンなど、新たなファイナンスの機会を創出しています。

 

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Global Mobility Serviceは、事業成長・特許技術が評価され、2019年9月に総額約17億円の資金調達を完了。新たな事業領域への取り組みや、未開拓エリアへの進出に力を入れるだけでなく、既存事業のさらなる成長を目指すと言います。

中島さん「これからも、FinTechとIoTをひとつにつなげ、『真面目に働く人が正しく評価される仕組みを創造する』というビジョンの達成を目指していきたいですね。

具体的な目標は、2030年までに世界1億人のファイナンス機会を創出すること。現在は、フィリピン、カンボジア、インドネシアなどでサービスを展開していますが、今後はアフリカや南アメリカなどの南半球の国々にもサービスを届けられるよう邁進していきたいです」

 

最先端技術の実用化を加速化し、社会課題の解決を目指すPreferred Networks

 

2014年に設立されたPreferred Networksは、深層学習技術を交通システム、製造業、バイオヘルスケア、ロボティクスなど幅広い事業領域に応用して実用化を進めています。

現在、約300人の従業員を抱えていますが、そのほとんどがエンジニア。様々な分野に特化したエンジニアが集結し、世界でもトップレベルの技術を誇るAIスタートアップとなっています。最近では、2020年6月に自社開発のプロセッサ「MN-Core」を搭載したスパコン「MN-3」が、スパコンの省電力性能ランキングである「Green500」で世界1位を獲得したことも話題となりました。

 

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イベントでは、同社とトヨタ自動車株式会社が共同開発した「全自動お片付けロボットシステム」が紹介されました。このロボットはトヨタ自動車のHSR(Human Support Robot)に、同社の深層学習技術を組み合わせ、全自動化を可能にしたもの。

物を移動させたり、人の指示に対応したりするなど、ロボットが人間の生活空間で仕事をするために必要な物体認識・ロボット制御・音声言語理解技術に深層学習が用いられています。

同社は、これまでにトヨタ自動車株式会社、日本電信電話株式会社(NTT)、ファナック株式会社、株式会社みずほ銀行など、業界の名だたる企業と資本提携を実施。各界から注目を集めるスタートアップとなっています。

 

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長谷川さん「プロスポーツのデータ解析アルゴリズムの開発、自動運転やコネクテッドカーに欠かせない物体認識技術や車両情報解析技術の開発など、これまで取り組んできたプロジェクトは100を超えます。これからも様々な企業と連携しながら『最先端の技術を最短路で実用化する』というミッションを達成していきたいです」

 

テクノロジードリブンベンチャーが、激しい競争市場で生き残るための秘訣

 

高い技術力が強みの両社にとって、その技術力の保持は競争力を保つ上で非常に重要です。

新型コロナウイルスの影響で各業界でのDX(デジタルトランスフォーメーション)に対する意識が加速した一方で、同時に競合も多くなりつつあるといいます。そうした環境下において、テクノロジードリブンベンチャーが高い技術力と競争力を保持し続けるためにはどうしたらよいのかが議論されました。

長谷川さん「技術力を高い水準に保つためには、自分たちの実力を的確に把握しつづけなくてはなりません。そのため、世界各国のコンテストへの出場や、国際学会への論文投稿は欠かせません。例えば、弊社の深層学習用スパコン『MN-3』がGreen500で世界1位を獲得したのもその一つですし、他にも2019年には国際的な画像認識コンテストで世界3位を獲得しています。こうした結果をもとに自分たちの実力を客観的に把握しつづけています。

また、コンテストは実力を測る側面もありますが、私たちの技術を社会に伝えるための手段でもあります。今、数多くのテクノロジー企業が生まれているので、協業先にとっては技術の比較が難しい状況です。コンテストの成果は、弊社を選んでもらうための一つの指標になるとも考えています」

 

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株式会社Preferred Networks 執行役員 最高業務責任者 長谷川順一さん

一方、中島さんは競争力保持につながるのは人材であり、その人材採用の鍵となるのは強いビジョンだと語ります。

中島さん「弊社には、青年海外協力隊などへの参加経験がある社員や、社会課題への強い問題意識をもって大企業から転職してくる社員も多いんですね。つまり、社会課題を解決したいという強い内発的動機をもった人材が集まっているのです。

それを可能にしているのは弊社の『モビリティサービズ提供を通じ、多くの人を幸せにする』という経営理念と『真面目に働く人が正しく評価される仕組みを創造する』というビジョンだと考えています。経営理念とビジョンによって志を持った優秀な人が集まり、強い事業をつくる源になるはず。高いスキルを持つ人材が集まり、一つの方向に向かっていくための経営理念とビジョンこそが、事業競争力につながると言えるのではないでしょうか」

 

大企業との共創で大切なのは「同じ未来」を見られるかどうか

 

イベントの最後、モデレーターの鎌田さんからお二人に対してこんな質問が投げかけられました。

 「ベンチャー企業が世界に向かって飛躍していくためには、他企業との協業が大きな鍵となります。両社はこれまで大企業との協業を次々と成功させてきました。協業において大切にしてきた視点などはあるのでしょうか?」

この質問に対して、トヨタ、ファナック、エネオス、中外製薬、東京エレクトロンなどと協業を進めてきたPreferred Networks、川崎重工業株式会社、株式会社デンソー、大日本印刷株式会社、凸版印刷株式会社、広島銀行や大垣共立銀行と資本、業務提携を実現してきたGlobal Mobility Service両社の視点が語られました。

長谷川さん「機械学習や深層学習を生かしたサービス開発をご提案すると、現場プレイヤーからは『この技術を導入すると、僕たちの仕事がなくなってしまいませんか?』と質問をされることがあります。このような短期的な視点から判断されてしまい、協業が進まないケースも少なくはありませんでした。だからこそ、協業を進める際には、経営層と直接話すことを大切にしています。長期的な視点から同じ未来を見て、新たな価値を一緒に共創できるパートナーと協業を進めることが、なによりも重要だと考えています」

中島さんも、この言葉に深く頷きながら話を続けます。

中島さん「長谷川さんがおっしゃる通り、お互いの力を合わせて新たなサービスを生み出していくためには、長期的な関係性を見据える必要があります。協業レベルであれば、利害関係が一致しているだけでもよいかもしれません。しかし、資本提携など長期的な関係性を築くのであれば、どの方向を向いて進んでいくのかという理念レベルで、共感しあえていることが大切ではないでしょうか」

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Global Mobility Service株式会社 代表取締役 社長執行役員CEO 中島徳至さん

 

テクノロジードリブンベンチャーとして世界で活躍する2社から語られた競争力維持の工夫と、影響力をさらに拡大するためのパートナーとの共創のポイント。これから世界に羽ばたこうとするベンチャー企業や、新しい価値を生み出そうとしている大企業にとっても参考になる部分が多かったのではないでしょうか。登壇してくださった2社の今後にも注目です。