新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中で生活様式が大きく変わる今。新たな市場が生まれていくこの機会をいかに捉え、自社のビジネスにつなげていくのか──。

8月25日(火)の丸の内フロンティア定例会は、「コロナで加速する次世代シフト」をテーマに開催され、上記のような議論が飛び交いました。

同イベントはスタートアップと大企業の交流を促進する機会として、オープンイノベーションプラットフォーム「TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)」と共同で開催しています。3月から一旦開催見合わせとなっていましたが、今回オンラインで再開することになりました。

登壇したのは、フィンテックソリューションを提供するSYNQA(シンカ)代表取締役の長谷川潤さん、音声コミュニケーションを起点としたチームグロースプラットフォームを提供するBONX(ボンクス)代表取締役CEOの宮坂貴大さん。いずれも国内だけでなく、海外市場に挑戦するスタートアップで、コロナ禍でも勢いを落とすことなく事業展開を進める注目の企業です。

モデレーターは、東京21cクラブメンバーでもある特定非営利活動法人ENDEAVOR JAPAN (エンデバージャパン) Managing Directorの眞鍋亮子さん。ENDEAVORは、起業家のメンタリングや資金調達支援を通じて、国内外におけるスタートアップの成長を促進させる組織です。SYNQAとBONXはどちらも、ENDEAVORのプログラムに採択されています。

今回のイベントでは、各社の紹介やコロナ禍における今後の展望、スタートアップと大手企業による連携の可能性について語っていただきました。

 

Toyota Walletの開発支援も。10カ国で事業展開するSYNQA

 

イベントの冒頭では、各社の紹介とともに「コロナで加速する次世代シフト」という今回のイベントテーマに沿って、新型コロナウイルスの感染拡大に対する各社の対応が語られました。

SYNQAの長谷川さんが共同創業者のDon Ezra Harinsutさんとタイで起業したのは、2013年6月。「すべての人が金融にアクセスできるようにすること」をミッションに、3人のメンバーと1000万円の自己資金で東南アジアに特化した決済プラットフォーム「Omise Payment」を立ち上げました。Omise Paymentは導入の容易さや不正防止機能が支持され、大手通信会社や決済事業者をはじめ、多くの加盟店で利用されています。

2020年年4月にはホールディングス化し、Omise Paymentを提供するOmiseのほか、パブリックブロックチェーンを提供するOMG Network、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するOMISE LABSの3社の子会社を持つ形に。現在は、すでに10カ国に事業展開し、社員は285人超に拡大しているそうです。

また、2020年6月にはシリーズCラウンドでトヨタファイナンシャルサービスや三井住友銀行(SMBC)などから、8000万ドル(約86億円)調達したと発表しました。

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直近では、コロナ禍においてインバウンドに特化したペイメント会社などが打撃をうけるなか、SYNQAはほとんど業績を下げることがなかったそう。その理由を長谷川さんは「多様な業界に分散して進出していたからではないか」と分析します。

また、単に打撃をおさえただけでなく、コロナウイルスの感染拡大はECの需要や企業のDX化、キャッシュレス化を推し進める追い風となっていると長谷川さんは語ります。

長谷川さん「これまでは海外市場を中心に展開してきましたが、日本でもコロナ禍の影響でキャッシュレス化の動きが加速。トヨタの決済アプリ『Toyota Wallet』の開発支援がはじまるなど、国内市場にも進出しています。これまで国内は2人体制でしたが、今年に入って60人規模まで増やしました。今後も決済プラットフォームやブロックチェーンを提供するスタートアップとして、企業のフィンテック化やDXを支援していけたらと思っています」

 

「声」で人とつながる、BONXが提案するコロナ禍の働き方

 

2014年に創業したBONXは、音声コミュニケーションを起点とした「チームグロースプラットフォーム」を提供しています。もともと宮坂さんはスノーボードが好きで「滑りながら仲間と話したい」という思いから、電波のほとんど届かない雪山でハンズフリーで使用できる音声通信システムを開発。それが起業のきっかけになりました。

当初は、スポーツやアウトドア領域を中心に利用されてきましたが、2017年に法人向けに音声による業務支援ツールの提供を開始。今では航空会社や宿泊施設、店舗、建築土木現場、介護医療現場などのビジネス現場での活用も進んでいるそうです。

そんなBONXが現在注力するのは、新型コロナウイルスの影響で広がったリモートワーク時のコミュニケーション課題解決です。これまでのアセットを生かし、リモートであってもオフィスにいるかのように気軽に話せる「声による常時接続」を提供。同時に複数のルームに入ったり、ルーム内の特定の人とだけ話したりできる機能を持ち、コミュニケーション不足に陥りがちなリモートワーク環境の整備をサポートします。

宮坂さん「リモートワークが普及したことで、雑談や相談、連絡といったメンバー同士のコミュニケーションが不足しがちになっています。ソーシャルディスタンスを保たなければいけない状況も踏まえて、私たちは“音声”でつながる働き方を普及させたいと考えています」

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コロナ禍における大企業との共創で求められることとは

 

コロナウイルスによる影響を負の側面からだけでなく、ビジネスチャンスとして捉える両社。

続いて話題に上がったのは、丸の内フロンティアがテーマにも掲げている、コロナ禍において「大企業とスタートアップの交流を促進するために何が必要か」という点でした。

モデレーターの眞鍋さんから「欧米ではスタートアップは大企業ができない分野にリスクをとって挑戦する存在としてリスペクトされていますよね。国内の大企業だけでなく、海外企業との共創も進めている両社ですが、これまでの経験から共に事業を進めていくうえで重要だと感じるポイントはありますか?」と、質問が投げかけられました。

この問いに対して、両社ともに「大企業の事業の進め方や経営者が持つ視座からは学ぶことが非常に多い」としたうえで、共創によるインパクトをさらに高めていくために求めることを次のように語ります。

長谷川さん「よく伝えているのは『私たちはSIerでなく、インフラ屋だ』ということです。一方的に要求を伝えたり、逆に「お任せするので良い感じに作ってください」というスタンスではなく、一緒に良いものを作るパートナーとして見てもらえると嬉しいです」

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SYNQA代表取締役 長谷川潤さん

宮坂さん「長谷川さんと同じで、スタートアップのことを『下請け』だと考えている大企業さんとの取り組みは、なかなか難しいですね。パートナーとして見ていただけるかどうかは、担当者の方がどれだけ事業に対してビジョンを持っているかが非常に重要な気がしています」

また、共創を行う上でスタートアップが持つべき視点も、お二人から語られました。

長谷川さん「ENDEAVORのメンターから言われた『何でもOKと仕事を受けてしまったら企業としての軸がブレてしまう』という言葉が印象に残っています。特にDX化支援は多様な業界からさまざまなオーダーがあります。しかし、私たちはファイナンスインフラストラクチャを提供する会社なので、それ以外の分野はやらない。何でもOKと言っていると仕事としての利益は出るかもしれませんが、事業の積み上げにはなりません。シェフとしてクッキングはするけれど、それはあくまで自分のキッチンに材料があるものだけにするということですね」

宮坂さんは、パートナー企業の中にいかに理解者を増やすかがポイントになると話します。

宮坂さん「大企業との共創は、現場の担当者や情シスの方など必然的に関係する人が多くなるため、いろんな人を巻き込みながら進めていかなければいけません。様々な部署や関係者のコンセンサスを自分たちだけでとるのは大変なので、勉強会などを開催しながら、パートナー企業の中に理解者を増やしていくことを意識しています」

 

コロナで変化する時代、スタートアップだから描ける世界がある

 

「コロナの影響で、世界は大きく変わってしまいました。この変化を受け入れ、切り替えられた企業は勝てる。でも、いつか元に戻るはずと変化できない企業は取り残されてしまうかもしれない。変化に強いスタートアップだからこそ描ける世界があると思っています」

イベントの最後、眞鍋さんはこう話したうえで、二人の起業家に描くビジョンを聞きました。

THE World is Our Playground(世界は僕らの遊び場)。この言葉をコーポレートスローガンに掲げるBONX。仕事も遊びも本気で楽しめ、という意味が込められているそうですが、宮坂さんはコロナ禍において変化する「働き方」に危機感を抱いていると語ります。

宮坂さん「今、率直に感じているのは『リモートワークがこのまま続くとヤバイな』ということです。仕事の楽しさのひとつって、同じ思いを持つチームの仲間とともに働くことにあると思うんです。でも、今のままだとコミュニケーション課題によって一体感が得られず、働く楽しさが薄まってしまいかねない。

このままでは一部の企業以外、リモートワークをやめて元の労働環境に戻ってしまう可能性もあります。その未来をどう変えられるか。音声コミュニケーションを起点に、新しい働き方を作っていける存在になりたいですね」

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BONX代表取締役CEO 宮坂貴大さん

 

対して、ファイナンスインフラストラクチャを提供するSYNQAの長谷川さんは、国内でもあらゆるデジタル化が進む一方で、「お金のデジタル化」は進んでいないと強調します。

長谷川さん「日本は銀行口座の普及率が先進国でもトップクラスにある一方で、(1人当たり10万円を給付する)特別定額給付金のやりとりは郵送、といった状態もあります。

私たちの目標は、こうした状況を変えるBtoG(Government)の領域にも進出すること。イグジットして終わりではなく、次の世代に利用されるインフラを作ることをビジョンに掲げています。テクノロジーと戦略を駆使し、国のインフラをも手掛ける企業になりたいです」

東京21cクラブでは、今後もオンラインを中心に大企業と国内外のスタートアップの交流の場を用意していく予定です。今後のイベントにも、どうぞご期待ください。