2020年6月10日(水)、三菱地所が運営するEGG JAPANのビジネスコミュニティ「東京21cクラブ」とイベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」が共同開催する「Founders Night Marunouchi」を実施しました。(前回のイベントレポートはこちら)。

このイベントは、スタートアップの第一線で活躍する経営者の経験から学びを得るもの。

今回は株式会社ムスカ代表取締役CEOの流郷綾乃さんが登壇。同社は1200世代にわたって優良種を選別交配したイエバエを活用し、1週間で有機廃棄物を飼料と肥料に分解する100%バイオマスリサイクルシステムを提供しています。モデレーターはPeatix Japan取締役の藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志が務めました。

スタートアップを経営するために、戦略や資金調達などはもちろん重要ですが、先ずは「事業を知ってもらうこと」が大切――。広報として長いキャリアを持つ流郷さんは語ります。

流郷さんは販売代理店で広報を経験し、フリーランスに転身。15社の広報業務を担当した後、2019年4月からムスカの代表取締役CEOに就任しました。当日は、なぜCEOに就任したのか、その意思決定の変遷とスタートアップにおける広報の重要性が語られました。

 

営業をせず会社の売り上げに貢献したい。広報を始めた意外なきっかけ

 

ムスカ①イエバエを活用して作られた肥料(左)と飼料(右)

「電話を持つ手が震えるんですよ。営業なのに、これではダメだなと思いましたね」

イベント冒頭、大阪でOA機器の営業販売をしていた当時の心境を語ってくれました。営業成績のよい社員を横目で見つつ、電話が苦手な自分でも何とか貢献できないかと必死で考えた流郷さん。「電話で売り込みをしなくても、PRで会社に注目してもらえればよいのではないか」と思いつき、社長に広報をやらせてもらえないかと持ちかけます。

「広報の講座に通いPRの役割からプレスリリースの書き方まで、ゼロから必死に学びました。初めに携わったプレスリリースが日本経済新聞の大阪版に大きく取り上げられたことが、最初の成功体験に。やっと会社の売り上げに貢献できたと、ホッとしたことを覚えています」

当時の大阪には広報部署がない企業も多かったため、その後他社からも相談を持ちかけられるようになり、フリーランスに転身。15社ものスタートアップや中小企業の広報を手がけるように。ムスカも担当していた一社だったといいます。

musca03ムスカ代表取締役CEOの流郷綾乃さん

ある時、事業の認知度をより高めていきたいというフェーズだったこともあり、創業者で現会長である串間充崇さんが流郷さんにこう声をかけたそう。

「経営陣としてジョインしないか?」

この一言がきっかけで、流郷さんの人生は大きく変わることになります。予想もしていなかった言葉に戸惑いつつも、経営にまで責任を持たなければいけない重圧に、最初は「耐えられる自信がなかった」と当時を振り返ります。

それでも、暫定CEOを経て、今の役職に就任する意思決定をしたのは、「自分の子どもが80歳になった時に、必要とされる事業だと思えるか」という仕事を選ぶ基準に当てはまったから。ハエを活用したテクノロジーで社会問題を解決するムスカの事業に可能性を感じ、子どもたちの未来になくてはならない存在だと確信したそうです。

 

資金に限りのあるスタートアップだからこそ、広報が重要となる

 

培ってきた広報スキルを、経営者として生かすことを決心した流郷さん。しかし、「そもそも虫が苦手(笑)」と語るように、もともとはバイオテクノロジーに関する知識が全くなかったといいます。知識がゼロの状態から、事業を理解するため猛勉強を重ねました。

ムスカ②-1ムスカのイエバエ循環システムイメージ

「ムスカはハエを活用した昆虫テクノロジー企業で、社会からも注目されやすい。しかし、広報をするうえで、ただ『ハエがすごい!』とアピールするだけでは事業の魅力を伝えることはできません。広報で大切なのは、一歩引いた視点で事業の可能性や社会的意義を伝えること。知識がゼロの状態から始めたからこそ、多くの人に魅力が伝わる広報を意識できました」

流郷さんの堅実な広報活動が結実し、2019年12月にはテレビ東京で放送されている『ゆうがたサテライト』で約4分にもわたってムスカが取り上げられました。その後も、流郷さん自身のキャリアにフォーカスした形なども含めて、多くのメディアに紹介されるように。

■動画:世界の救世主は“ハエ”!?【昆虫ベンチャー「ムスカ」のビジネスとは?】(テレ東NEWS)

メディア露出が増えたことにより、代表取締役COOの安藤正英さんをはじめとした、事業に共感した優秀な人材が多く集まったといいます。イベントの最後、スタートアップだからこそ広報に注力する重要さと大事な視点について、流郷さんから語られました。

「どれだけ良い事業を展開しているスタートアップでも、伝えることができなければ事業が埋もれてしまい、事業の発展や会社の肝となる人材の採用にもつながらなくなってしまいます。資金に限りがあるスタートアップだからこそ、私は広報が重要になると考えています。

そのとき大切にしたいのが、メディアに取り上げてもらうことを目的としないこと。確かに、メディアに掲載されれば、多くの人に知ってもらえる可能性は高まります。しかし、取り上げてもらうことで、誰に共感してもらいたいか、読んだ人にどんなアクションをとってもらいたいのか。そこまで考えた上で、メディアに掲載されなければ意味がありません」

musca055月18日に開設した「Sustainable Food Market」

ハエで持続可能な社会構築に向けて、事業展開を加速するムスカ。新型コロナウイルスの感染拡大による影響もあり、6月4日の「虫の日」にはムスカの飼料を取り入れる事業者の食品を扱うECサイト「Sustainable Food Market」開設を正式発表し、生産者の支援も始めました。ハエで世界の食糧危機解消を目指し、事業拡大を進めるムスカに今後も注目です。

次回のFounders Night Marunouchi vol.12(Zehitomo CEO ジョーダン・フィッシャーさん編)は、7月8日(水)にオンラインで開催いたします。ご興味がある方は、ぜひこちらよりご参加ください。