2020年1月29日(水)、東京21cクラブにて、豊富な経験を持つ起業家を招いて経験談を伺う会員限定イベント「Marunouchi イノベーターズサロン」を開催しました。第4回となる今回は、ラーメンチェーンの「幸楽苑」を運営する株式会社幸楽苑ホールディングス代表取締役の新井田 昇さんをお招きし、聞き手は株式会社セレブレイン代表取締役社長 高城幸司さんがつとめました。

全国に約500店舗を展開する同社は、1954年に新井田さんの祖父が創業。親子3代にわたって受け継がれてきました。

しかし、2018年3月期は、業績不振に陥り、32億円の赤字を計上するに至ったと言います。それから業績回復のための改革に次々と着手し、Ⅴ字回復の実績が認められ、2018年11月には代表取締役に就任しました。翌2019年3月期には、過去最高の売上412億円/純利益10億円を達成しましたが、今回はそのV字回復を可能にした経緯等についてお話をされました。

「幸楽苑といえば、290円中華そば」のイメージを刷新

「このままでは60年以上、多くの人に愛されたラーメンをお届けできなくなる」

存続の危機に立たされていた会社への危機感を胸に、新井田さんはまず業績につながらない無駄なコストのカットや、新規顧客を取り込むための商品改革に乗り出したと言います。

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左から株式会社セレブレイン代表取締役社長 高城幸司さん、株式会社幸楽苑ホールディングス代表取締役社長 新井田 昇さん

コストカットの対象として着目したのが、毎月1億円以上のコストをかけて配布していた「餃子無料券」でした。

「無料券を使うと、お客様単価から計算すれば、実質的には30%の値引きになります。『安くてうまい』が売りであり、お客様単価が高くなかった幸楽苑にとって、これほどの値引きは致命的でした」

そこで、新井田さんは餃子無料券の廃止を決意。これにより来客数の減少も覚悟したと言います。しかし、蓋を開けてみると、廃止から6ヶ月連続で目標を大幅に上回る来客数を達成。その後押しとなったのが、同時に進めていた商品のリニューアル、そして抜本的なマーケティング改革でした。

「幸楽苑の看板メニューであった290円中華そばを廃止。スープや具に工夫を凝らした390円『極上中華そば』へとリニューアルしたのです。これが美味しいと評判を呼び、来客数は増加しました。同時に従来とは全く異なるCMを次々と企画した結果、これらも大きな反響を呼び、大幅な売上アップにつながりました」

また、既存商品のリニューアルにとどまらず、新井田さんが力を入れたのが、話題性のある期間限定商品の開発でした。

「2019年11月には希少性が高く、幻の豚とも呼ばれる金華豚を使った『平田牧場コラボ Wチャーシューめん』(税込880円)を販売。安さを売りにした幸楽苑のイメージを覆そうと考えました。また、バレンタインシーズンには『チョコレートらーめん』(税込640円)[販売期間 2020年1月30日(木)~ 3月11日(水)]も考案。話題性のある期間限定商品を通して、これまで幸楽苑を訪れたことのない方々にも興味をもってもらえるのではと考えたのです」

こうした期間限定商品は、キャッチーさからSNSで拡散され、さらに来客数が増加しました。いつ来店しても新たな商品があることで、お客様を飽きさせず、リピート率の向上にもつながったと新井田さんは語ります。

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V字回復を支えた社員へ感謝を込めて「元日休業宣言」

業績回復に向け、新たな施策を次々と実行した新井田さん。しかし、コストカットや提供する商品の変更など大幅な改革を行えば、現場への負担増は避けられません。スタッフからの反発はなかったのでしょうか。

「改革を受け入れてもらえるのか、もちろん不安はありました。でも、幸楽苑ブランドの建て直しには現場の協力が必要不可欠です。そこで、スタッフのモチベーションを高める改革にも同時に取り組もうと考えました」

そこで、新井田さんが考えたのは、オペレーションマニュアルをシンプルにすること、そしてマニュアルを分かりやすく動画化するなどの施策でした。細かいオペレーションを分厚いマニュアルで確認させることを止め、各店舗にタブレットを導入し、動画でマニュアルを理解できるようにする等、現場スタッフがより学習し易く、業務に取組み易い環境を整えたのです。そのうえで、インセンティブを設け、努力によって成果をあげたスタッフを社員・アルバイト関係なく評価し、モチベーションの向上に努めました。

「結果として、全体的にオペレーションの標準化が図られ、モチベーションも向上しました。『幸楽苑ブランドをよりよくしていこう』という意識が全スタッフに生まれ、改革に伴う変化も前向きに受け入れてもらいやすくなったのです」

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32億円の赤字からV字回復を達成できたのは、スタッフの頑張りがあったからです――。新井田さんはそう話します。

そんなスタッフへの感謝を表すべく、新井田さんは2019年にある驚くべき宣言を行いました。それが「2億円事件」と題されて話題となった、大晦日の夜と元旦の休業宣言でした。

「大晦日の夜と元旦の売上は約2億円にのぼり、休業は簡単な意思決定ではありませんでした。でも、32億円の赤字を回復するまで会社の改革についてきてくれたスタッフに感謝を伝えたかった。これまで頑張ってもらった分、ゆっくり休んでもらいたいと考えたのです」

お客様に満足いただくためには、まずはスタッフが心地よく、前向きに働ける必要がある。これからも幸楽苑ブランドを支えてくれるスタッフが働きやすい環境を作っていきたい。イベントはそんな新井田さんの言葉で締めくくられました。

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イベント後は、交流会を開催。新井田さんを囲み、質疑応答や意見交換が行われました。