「大企業はギブファーストでなければいけません——」                                        株式会社セブン銀行 セブン・ラボ リーダー 西井 健二朗さんはスタートアップと向き合う姿勢を、このように語ります。

2019年10月24日(木)、EGG JAPANの東京21cクラブにて、スタートアップや大企業新規事業 担当者の交流を促進する「丸の内フロンティア定例会」を開催しました。

今回は、丸の内エリアに立ち上がったオープンイノベーションプラットフォームTMIPTokyo Marunouchi Innovation Platform)との共同開催。大企業、スタートアップ、VCと異なる立場の4社が登壇し「大企業、スタートアップから見た協業パートナー選定の決め手と協業加速の要諦」をテーマに、協業の加速における要諦が語られました。

経産省が発表する調査研究によれば、国内CVCの約9割が2010年以降に設立されており、その半数以上が事業戦略的リターンを重視しているといいます。では、両者のパートナーシップを加速させるには何が必要となるのか。双方の視点と経験が共有されました。

新規事業創出担当からVC、スタートアップまで多様な視点を共有

イベント前半は、登壇者それぞれの自己紹介と共に、双方の経験が語られました。

最初に登壇したのは、株式会社コニカミノルタ ビジネスイノベーションセンター(BIC)ジャパン所長 波木井卓さん。同氏はスタートアップの立ち上げや経営を経験した後、5年前に株式会社コニカミノルタに入社。現在は新規事業を創出するBICの所長を務めています。

eggjapan02株式会社コニカミノルタBIC所長 波木井 卓さん

波木井さんは、BICがこれまで取り組んできたオープンイノベーションの事例として、スマートフォンと連携し、ニオイを見える化するデバイス「kunkun body」を挙げました。

波木井さん「kunkun bodyはコニカミノルタの事業領域にはない技術を用いたものです。当社は複合機、プリンタなどの製品が売り上げの約8割を占めています。しかし、デジタル化やペーパーレスにより、今後の売り上げを伸ばすことは難しいことが予測される。このまま自分たちが得意な領域に留まっていたら、売り上げが落ちることは明確でした。ゆえに、自社の技術や領域にこだわらず、オープンイノベーションを推進するBICを立ち上げました」

現在BICは世界5カ国で展開。kunkun bodyだけでなく、機械通訳のデバイスや健康分野のプロダクト開発などに注力しているといいます。

二人目は、冒頭でも紹介した株式会社セブン銀行 セブン・ラボ リーダー 西井健二朗さん。同社は「いつでも、どこでも、だれでも、安心して、みんなのATM」「外国人から1番選ばれる銀行へ」「セブン&アイグループならではの金融商品」を軸に、スタートアップとの提携や出資などを重ねてきました。その専門部隊として2016年に設立されたのが「セブン・ラボ」。オープンイノベーションを通し、顧客の課題解決に力を入れています。

eggjapan03株式会社セブン銀行 セブン・ラボ リーダー 西井 健二朗さん

西井さん「セブン・ラボでは、API連携など、事業面での提携を積極的に進めています。2017年には、勤怠・給与システムを提供するDoremingと連携。2019年にはTaimeeとも連携をし、顧客の利便性を向上する施策をともに作り上げてきました」

三人目はTORANOTEC株式会社取締役 藤井亮助さん。今回登壇する企業のなかで唯一のスタートアップで、セブン銀行の投資先企業のひとつでもあります。

藤井さんは毎日のおつりを自動で投資に回せるアプリ「トラノコ」を運営。少額で投資に挑戦できるため、ユーザーの半数がトラノコで初めて投資を経験しているといいます。

eggjapan04TORANOTEC株式会社 取締役 藤井 亮助さん

藤井さん「我々は、すべての人が明るい未来に向けて資産形成できることを目標に掲げています。現状、20代の約80%が投資をしたことがありません。トラノコで投資へのハードルを下げることで、今まで投資に興味がなかった人も投資家になれる世界を目指しています」

最後は日本ベンチャーキャピタル株式会社執行役員 照沼大さん。96年の設立以来、情報通信と医療を軸に幅広い投資実績を積み上げてきた老舗VCです。同社の特徴は、多様な協業体制。その先は企業だけで無く研究機関、教育機関にも渡るといいます。

eggjapan05日本ベンチャーキャピタル株式会社 執行役員 照沼 大さん

照沼さん「通常のVCはスタートアップと組むことが多いですが、我々は最先端の研究を持つ大学とも協力しています。2019年8月には大阪大学と連携。研究成果の事業化、事業の支援を目的にファンドを設立しました。スタートアップ、大企業、大学が協業することで今まで解決できなかった課題にも取り組むことができます」

大企業が新規事業を成立させる鍵は、トップのコミットにあり

プレゼンテーションが終わった後は、パネルディスカッションに移ります。

ディスカッションでは、大企業とスタートアップの掛け合わせを考えるにあたり、大企業における新たな事業を生み出す難易度について語られました。

いうまでもなく、大手各社は新規事業の必要性について議論をし尽くしているはずです。しかし、長い歴史を誇り、数千人規模の従業員をかかえる大企業では、さまざまな仕組みやステークホルダーとの折衝が欠かせません。その中で新たな事業を生み出すには、何が肝となるのか。経験者の二人は次のように語ります。

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波木井さん「一人の熱量だけでは、大企業で新規事業を生み出すのは難しいでしょう。BICの場合、『新しいものを生み出さないと』という危機感がトップにあったタイミングだったからこそ、生まれました。新規事業では、熱量がある人たちと経営層の協力、双方のバランスが欠かせないと考えています」

波木井さんの発言に大きく頷きながら、セブン銀行 セブン・ラボ リーダー 西井さんからも、セブン・ラボ設立の背景が共有されました。

西井さん「セブン・ラボもBICと同様に、キャッシュレスという波にどう対応すべきかという経営レベルの危機感から立ち上がりました。この巨大な課題と向き合うにはトップのコミットメントが欠かせません。平均年齢50才の社員と役員で一丸となり、キャッシュレスという課題にどう向き合っていくか考え続けているのが今です」

大企業とスタートアップはお互いの視点を尊重し合う姿勢が欠かせない

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実際、そうした危機感と強いコミットメントのもと新規事業に取り組む大企業は着実に増えてきています。冒頭でご紹介したCVCファンドの増加もその一端であると、日本ベンチャーキャピタルの照沼さんは語ります。

照沼さん「CVCファンドの設立は、二度目の盛んな時期に来ていると感じています。。一度目はリーマンショック前。今回は、アベノミクスの効果で企業の内部留保も増加しているため、一定の増加率を保ち続けていますね」

では、着実にスタートアップとの距離を縮めようと尽力する大企業は、どのようにスタートアップと協業体制を組んでいけばよいのでしょうか。

今回登壇したTORANOTECは、セブン銀行にとってはじめての出資先。2019年1月には、2度目となる総額20億の資本提携契約を結んでいます。立場の異なるスタートアップと大企業が良好な関係を継続させるには何が求められるのか。それぞれの視点でお話をいただきました。はじめにマイクを握ったのはTORANOTECの藤井さんです。

藤井さん「我々は出資されている側ですが、全てオープンに、取り繕わないことを意識しています。セブン銀行さんとは毎月会議を行い、『良いこと』『悪いこと』全てを報告。スタートアップを経営していて、いつもうまくいくということは100%ありません。できないことは早めに報告し、ともに、成功へと歩んでいけるよう強く意識しています」

一方の西井さんは、「まだまだ模索中ですよ」と前置きをしつつ、「ひとつ挙げるなら」と言葉を続けます。

西井さん「いつも頭に置いているのはスタートアップへのリスペクトです。大企業はギブファーストでいなければいけません。TORANOTECにはセブン銀行全社をあげて、課題がどうすれば解決するか考えるよう常に心がけていますね」

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おふたりの話を受け、スタートアップと大企業、どちらも経験したBIC所長 波木井さんは両者が見えるものは大きく違うと見解を述べました。

波木井さん「スタートアップの経営者は、自身の生活とメンバーの生活すべてを肩に背負っています。つまり、大企業のサラリーマンとでは背負っているものがまったく異なる。大手側がサポートしようと思ってやったことが、時には組織や事業のひずみを生んだり、崩壊を招く恐れさえある。それを念頭に置いた上で、まずは彼らの一番の理解者になるよう務めることが必要だと思いますね」

eggjapan09イベント後は懇親会が行われ、大盛況に終わりました

大企業、スタートアップとも見据える先には同じ事業の成功があるはずです。ただ、視点が違うことで、衝突や壁が生まれてしまう。お互いの違いを理解しつつ、いかに相手に価値提供をできるのかを考え抜く姿勢が連携する上では求められるのではないでしょうか。

東京21cクラブでは、今後も大企業と国内外のスタートアップの交流の場を用意していく予定です。次回のイベントにも、どうぞご期待ください。