6月6日、株式会社アドライトは、「Mirai Salon #8 ブロックチェーンによる新規事業開発」を実施。4人のゲストの話を聞こうと、大手企業でイノベーション創出や新規事業に従事するオーディエンスを中心に、会場は満席となりました。

価値でつくるALIS経済圏

はじめに、株式会社ALIS 代表取締役・安 昌浩さんが登壇。価値と報酬が紐づく「価値主義」と経済還元を受けられる「自立経済点」をブロックチェーンとトークンエコノミーで実現しようとしているソーシャルメディア「ALIS」について触れました。

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株式会社ALIS 代表取締役・安 昌浩さん

ALISは、投稿した記事にいいねをもらう、もしくは信頼できる記事に“いち早く”いいねをしたユーザーがALISトークンを配布される仕組みだ。ユーザーごとに設定された信頼スコアも設定されており、信頼できるユーザーからいいねをもらうほどALISトークンも多く発行される。ここでいう「信頼できる記事」とは、ユーザーの評価が前提にある。加えて、フィードバック(いいね)があることでアウトプット(投稿、いいね)するというモチベーション維持の工夫もなされている。

「会社は株主の利益を追求するためにあるので、新規事業はコストカットやマネタイズ面を指摘されがち」。リクルートに新卒で入るも自社でALISをやろうと思えなかったのは、そうした状況に加え、コントロールできないものを大手企業でできるイメージがわかなかったからだという。

現在、β版を公開中のALISは仮想通貨やブロックチェーン情報が中心だが、アクティブユーザー約2,000人に対し、投稿記事約5,500、いいね数約11万、ページビュー71万(計測期間:4月23日-5月23日)。Twitterのフォロワー数も1年で1.6万人まで増加。

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非公式のファンコミュニティも自発的に立ち上がり、海外アンバサダーが各地でミートアップを開くなど、驚異のエンゲージメントを誇る。「ビジョンやサービス内容に加えて、日々のタスクや課題、ソースコードなどあらゆる情報を開示し続けていることに賛同いただいた結果では」と安さん。「お客様と目線を揃えながら一緒に新しい価値を作っていき、新たな経営手法にも挑戦していきたいです」と、意欲を見せられました。

自ら動き、周りを動かすを体現

中部電力株式会社 ICT戦略室 技術経営戦略担当・戸本 裕太郎さんは、ブロックチェーンを使った事業導入の背景を語ってくれました。

2017年、アメリカのエネルギーベンチャー・LO3 Energyが世界初となるマイクログリッドを構築したというニュースが流れた。ブロックチェーン技術により太陽光発電で充電したエネルギーをブルックリン内で自由に電力取引できるよう実証実験を進めるというもので、社内は「求めていたものはこれだ」とおおいに反応したという。

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中部電力株式会社 ICT戦略室 技術経営戦略担当・戸本 裕太郎さん

「社内の共感をより具体化する」ためにはまず体験してもらうことが必要だと考えた戸本さん、業務終了後、後輩と2週間程度でOSS「MultiChain」等使い、MVP(Minimum Viable Product)を開発。社内向けイベント等で“お披露目”を繰り返した。それがブロックチェーンを使った電子決済アプリである。独自の仮想通貨「カフェエネコイン」を発行し、1コイン=1円でコーヒー代の電子決済や利用者間の通貨交換機能をつけた。

この取り組みが新聞に取り上げられたことで、社内が一気に活性化したという。協力者が次々に現れ、会社までも動かすことに。コーヒーを仮想通貨で買うという体験が、構想していたブロックチェーンを使った余剰電力の個人取引につながった。

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今年3月には、Nayuta、インフォテリアと連携し、集合住宅においていつ誰がEVの充電をしたかが分かるよう、ブロックチェーンで充電履歴を管理する弊社技術開発本部を中心に実証実験を開始。「マンションオーナーにもEV充電設備の投資が少なくて済みます」と添えました。

「イノベーティブな風土は偶然の産物」としながらも、「インフラという立場である以上、危機的状況を起こしてはいけません。前例があって然るべき世界でテストされているものを流通させていますが、その環境下でも安全を担保し、投資する価値があると判断してもらう必要があります。そのために目や耳で伝わるよう取り組んだ結果、今日の発表につながったと思っています」と締めくくりました。

ブロックチェーンを使った異業種間共創

AIやIoT等浸透することで必然的に生まれている「異業種間共創」。実現するには各社が保有するビッグデータを流通し利活用させる必要があるが、そこには「データを出せない」「アイデアが出ない」「世の中に出せない」の3つの課題があると指摘するのは、富士通株式会社 ネットワークソリューション事業本部 サービスビジネス事業部 シニアマネージャー・池田 栄次さん。

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富士通株式会社 ネットワークソリューション事業本部 サービスビジネス事業部 シニアマネージャー・池田 栄次さん

「データは企業秘密でもありますし、個人情報が沢山入っています。さらに情勢もあって出したくても出せません」。 これらを解決するために考えられたのが「Virtuora DX データ流用・利活用サービス」。実データは各社に置いておき、データの概要をブロックチェーンで管理することで、コンソーシアムのメンバー同士で共有できるというものだ。富士通研究所が開発したスマートコントラクト「VPX」(Virtual Private digital eXchange)を組み込むことでデータの公開相手を細かく指定し、証跡も残るようにしている。

Virtuora DX データ流用・利活用サービスプラットフォーム止まりにしなかったのは、データの組み合わせで新たなサービスを生み出す可能性を期待してのこと。誰もが読んで分かり、創発しやすい形でデータの概要情報を記述する東京大学・大澤教授のメソッド「データジャケット」等取り入れているのもそのためだ。三菱地所・ソフトバンク・東京大学と連携し、丸の内でのデータ活用による街づくり実証実験を紹介しました。

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池田さんはこれまで複雑・不確実な新規事業に取り組んできたが全敗だったと振り返る一方、Virtuora DX データ流用・利活用サービス使ったデータ流通・利活用には手応えを感じているという。「市場接点を非常に早いタイミングで持てたことは大きいです。いかに遠くのゴールを皆で共有するか。それによって可能性が広がると思っています」

全方位支援のAWS、ブロックチェーンも幅広サポート

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 (以下、AWS) ソリューションアーキテクト・塚田 朗弘さんからは、AWSがどのようにブロックチェーンと向き合っているかについて紹介がありました。

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アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 ソリューションアーキテクト・塚田 朗弘さん

同社は100を超えるサービスを展開し、昨年だけで1,430件もの新機能・新サービスのリリースを行っている。値下げも65回。「サービスの95%はお客様の声をもとにできているため、全方位で支援」を掲げているとのことだが、意外なことに明確なブロックチェーンサービスは展開していない。ワークロードやインダストリーを限定せず、幅広い顧客のブロックチェーンの基盤をサポートし、安定運用できるよう支援していくというスタンスをとっているためだ。「そうでないとブロックチェーンではありません」と塚田さんは言い切ります。

AWS上でブロックチェーンを使った事例を5つピックアップしたのち、ブロックチェーン関連のリソース「ブロックチェーンパートナーズポータル」「ブロックチェーンテンプレート」を紹介してくれた。前者はAWSパートナーがエコシステムでソリューション導入を助けるというもので、後者はEthereumとHyperledger Fabricを5分で立ち上げられるというもの。利用者数と需要が多かったことから展開している。ほか、セキュリティへの取り組みについても触れたが、ブロックチェーンだから何かが大きく変わるわけではないという。

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ブロックチェーンに関する単純な情報交換以外に、これから立ち上げようとしている事業はブロックチェーンで実現できるかという問い合わせが増えているという塚田さん。確信を持っているわけではなく、チャレンジの一環として使う投資のような状況が大半につき、「正直ブロックチェーンでなくていいのでは?と申し上げることも多いです」と塚田さん。導入基準があるとすると、トレーサビリティなのか?改ざんを防ぎたいかなど核の部分に当てはめてみることとした。

ブロックチェーン導入の前に必要なこと

後半は、アドライト社代表・木村さんモデレートのもと、パネルディスカッションが行われました。

ブロックチェーンを使ってうまく実装できたところを聞かれると、「コミュニティ全体でサービスを作っていく感覚」と、安さん。同社が目指す、信頼できる人や情報を提供する人が報われる経済圏のためには欠かせないとした。池田さんも同様に、「ブロックチェーンを使った何かをしようとしている方同士でいいコミュニティが形成されている」ことを強調されました。

類似事業体の動きを日夜研究しているという戸本さんは、発電設備を使わずにエネルギーを流通させるというライフスタイルを模索する時代になったことで、ブロックチェーンは分散エネルギープラットフォームとの信用性が高いと感じているという。「ご紹介したEVのようにサービスをセグメントし、流通している電力すべてに適用させる技術も不可能ではありません」と、期待を寄せる。

日本と海外とでブロックチェーンを取り入れてのサービスを比較した際、技術的に差があるのかという質問に対しては、「基本的な違いはありません。むしろ日本のほうがよく考えてレベルの高いことをしていると感じる部分が多いです」と塚田さん。ただ、外(海外)に出ていないため知られていない可能性は多いと指摘する。「言葉の壁を気にせず情報発信をしっかりしていくことが大事」と話しました。

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今後、スマートコントラクトによってどんな世界になるのか聞かれると、「中国のような信用価値経済(安さん)」「さらに上のレイヤーのサーバーレスコンピューティング(塚田さん)」といった何かに属するもしくは介することを必要としないコメントが相次ぎました。

今回はブロックチェーンを使った新規事業がテーマでしたが、イノベーションにはスピードと思い切りが必要であることを教えてくれました。