2017年12月5日、大手企業のオープンイノベーション支援等行う株式会社アドライトは、「Mirai Salon #6 ロボティクスから自動車までーオープンイノベーションがもたらす次代」を開催しました。Mirai Salonは、有識者の方をお招きし、社外リソースを活用したオープンイノベーションや支援事例をテーマに開催しているイベントシリーズ。今回、大手企業2社とベンチャー2社が登壇しました。

~シリコンバレー式はうまくいかない—日本流オープンイノベーションの極意~

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自前主義からの脱却とオープンイノベーションへの挑戦

最初に登壇したのは株式会社デンソー 技術戦略企画室 技術企画課・栗山 裕樹さん(以下、栗山さん)。同社は世界トップクラスの自動車部品メーカーとしてあまりにも有名ですが、車以外にも産業用ロボットやQRコード読取機、ワインセーバーなど幅広い製品の開発・製造に取り組んでいます。

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株式会社デンソー 技術戦略企画室 技術企画課・栗山 裕樹さん

「自動車業界はパラダイムシフトが起きている。電動化や知能化、コネクテッド化等、他業界のITジャイアントが参入することで、ビジネスモデルや牽引するプレーヤーにも変化が生じている」と栗山さん。

「この状況に立ち向かうために組織の壁を越え、あらゆる業界とオープンイノベーションを進めていく必要がある」とし、社内ですべて完結しようという自前主義から一点、大企業や中小企業、スタートアップ、産官学との連携に取り組むように。

たとえば、株式会社みらい創造機構に出資し、東京工業大学の尖った技術を探索。その過程で出会った企業等と協業やパートナー連携を進めているほか、自社イベントの開催等でネットワーク構築に努めているといいます。

今年1月、オープンイノベーションを推進するために専門部署を新設し、7月には活動を加速するために組織改革を行った同社。イノベーションへの挑戦は勢いを増すばかりです。

大手企業からスピンオフの原動力となったもの

続いての登壇は、Fintech領域の技術開発や販売をおこなうJapan Digital Design株式会社 代表取締役CEO・上原 高志さん(以下、上原さん)。三菱UFJフィナンシャル・グループの内部組織「イノベーション・ラボ」を拡張・分離した背景には、あるジレンマがあったといいます。「上層部からはイノベーションが起きそうなことをやるよう指示が来るが、予算管理部署や事業部門はリスクを取りたがらない。結果、やろうとしていたことが中々進まない状況が続いた」

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Japan Digital Design株式会社 代表取締役CEO・上原 高志さん

上原さんは、2つのルールを設けることでイノベーション創造のしやすい環境を作っています。1つ目は完全に独立した別組織とすること。もう1つは、レポートラインを徹底的に短くし、CXO5名に3ヶ月に一度のプレゼンのみの自治権を担保すること。

組織づくりにも余念がありません。UI/UXを重視するコンセプトに主軸を置く中、デザインシンキングの経験者がいないなら、デザイナーの兼業やデザイン会社との提携によりカバー。UXやプロトタイプの作成はエンジニアを直接採用し、彼らの主張にもできる限り応えていく姿勢を見せる。フルタイムでコミットしてくれる優秀な人材は探すのが大変な中、プロジェクトベースでのパートタイムでのコミットも認める社員制度等フレキシブルに対応しています。

イノベーション・ラボ時代にオープンイノベーションを推し進めてきましたが、自社のエンジニアリング力も加えて新しいFinTechのUXを作り、ビジネスを築いていくことを目標に掲げています。

こまめなフォローアップがオープンイノベーション推進の鍵

CMOトップダウンのもと、4年前から新規事業やオープンイノベーションを進めている日本ユニシス株式会社。「主にBtoBシステムインテグレートを主業務。当社のアセットは顧客であり、やりぬく力が強み。イノベーション創出においては、自社プロダクトとの連携より、パートナーとのビジネスエコシステムで創り出す世界を目標としている」とは、総合マーケティング部 Open Innovation推進室インキュベーションマネージャー・田中 美穂さん(以下、田中さん)。

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日本ユニシス株式会社 総合マーケティング部 Open Innovation推進室インキュベーションマネージャー・田中 美穂さん

社内啓蒙にあたり、あらゆる工夫をしている同社。CMO主催、執行役員がエンジェルとして参加のもと、スタートアップのトレンド情報等田中さんらが提供し、社内メンバーが外部のシーズやニーズについてディスカッションする朝食会を定期的に設けています。キュレーションされたパートナー候補企業とのビジネスプランのブラッシュアップを支援する部署を設置し、アイデアベースの企画を具体的に事業化企画にステージアップする等の工夫も。

さらにいくつかのアクセラレート企業との連携で、大学研究を含めたテクノロジーベンチャー企業との事業創出にも取り組んでいます。事業シナジーのあるパートナーへの投資戦略も始めたところで、リアルテックファンドやCVC設立、東大発企業をSXSWに連れていく「東大to Texas」や鶴岡市地域振興バイオサイエンス事業へのLab設置等、ユニークな取り組みも数多く行っているのが特徴です。

事業化検討の際には「協業パートナーやアイデアの対象が既存顧客の事業拡大につながるか」、経営層への投資判断を仰ぐにあたっては「1stユーザーとなる企業を見出せている企画」といった条件を用い、具体性のある事業化醸成への努力を続けているといいます。

会話がロボットの発展を促す

最後は株式会社UsideU 代表取締役・高岡 淳二さん(以下、高岡さん)。冒頭、ハウステンボスとHISと共に展開している「変なバー」の協働型ロボット「アヤドロイド」を紹介。表情認識で人間がロボットを操作しているもようをAIが学習しながら、人間の不自然な表情や動きを自動的に直す仕組みがなされています。

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株式会社UsideU 代表取締役・高岡 淳二さん

これにより、カスタマーサービスの質を下げることなく無人の接客を確立。「従来のAIは自動化されると同時に接客クオリティが下がっていたが、当社は接客クオリティを維持するだけではなく、『クオリティが上昇した自動化を目指す』」と高岡さん。

こうしたサービスに行き着いた経緯は前職にあります。アリババの日本法人立ち上げに携わった高岡さんでしたが、中国におけるEC化率(ネット通販の売上が小売全体の売上に占める割合)が15%を超えることの難しさに直面します。実物を見るまで購入を待ちたいというニーズが一定数ある=実店舗の重要性に改めて気づき、残りの85%に効率よくイノベーションを提供するにはロボットが欠かせないと感じたそうです。

ただ、いくら優秀なエンジニアでもデータを多く集めるビジネスの実現性は難しいと話します。「従来のスマートスピーカーやコミュニケーションロボットの共通点は、自然な対話に発展せず、集まるデータの量や質に限界ができる」

カスタマーサービスはコストセンターという見方が強いですが、アヤドロイドがリアルな顧客対応ができたら売上源(プロフィットセンター)となるのか?そのためにどんなキャラクターが接客として効果的か等検証しているといいます。

協業先選びはある程度柔軟に

後半は、アドライト代表・木村さんモデレートのもと、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われました。

オープンイノベーションを推し進めるにあたり、他社との関わり合いについて聞かれると、「活動開始から1年経過。プロダクトリリースまでは至っていないが、自動車関連で15万人の従業員を抱える自社でも思いつかない面白いものはある。テクノロジーだけでなくサービス自体にも目を向けている(栗山さん)」「(海外スタートアップについて)自社で不可能なら提携、自社で可能であれば真似るべき点は真似る(田中さん)」と、おおらかかつ柔軟な姿勢で取り組んでいるようです。

技術は社内のみ、ビジネスはハウステンボスと共に行っているという高岡さんは、「未来のことを理解している大企業とは協業しやすい。エンドレスな書類で各ステークホルダーに説明して回り、知らない間に方向が歪んでしまうといった事態を避けられる」と話します。

熱意と行動で人を動かす

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銀行に新卒で入行し、同グループからスピンオフという珍しい経歴の上原さんは、イノベーティブな方向へどうやって進んだのか聞かれると、「7年間リテールをやり、シリコンバレーのアクセラレーター文化が気になりジョイン。その後本社に要望を伝える機会があり、『自由に行動できる権利が欲しい』と伝えた」と、実体験に基づくコメントで会場を唸らせていました。

会場からも質問が飛び交います。

——現場だけでのオープンイノベーションには限界がある。専門部署が仮説からプロトタイプまでしっかり作ったほうがいいのか?

事業主体となる事業部門にアイデアを持ち込み、ターゲットとなる顧客を探し、事業計画書を書く。そして投資を上申するところまで寄り添う。併せて、アドバイスしてくれる役員エンジェルも見つける。(田中さん)

各部門の企画部長と個人的に仲がいいのが大事。担当ラインが本気でやりたいと思っているものはやる。人でだいたい見極める。(上原さん)

シリコンバレー式を日本にそのまま投入してもうまくいかない

——日本でも優秀なスタートアップはいるが、大企業と意外と接点がない。大抵VCやエンジェル投資家。彼らの資金投入のロジックは変わっていないため、シナジーのあるスタートアップに賭ける動きや場が大企業との間にもあると嬉しい。

スタートアップも経験を積んだアドバイザリーや社外取締役を入れたほうがいい。サービスに実績がないのはしょうがないが、それまでのトラックレコードは見たい。ライフサイエンスやロボティクス、AIの事業を推し進めるなら、資金調達の金額規模とそれに応じてどういう座組みをするのかないと厳しい。シリコンバレーのスタートアップはそのあたりうまい。(上原さん)

——日本でもシリコンバレーのスタイルをそのまま適用できるか?日本はそのまま戦えるのか?

日本人による日本人の会社では無理。公用語を英語にした会社を作り、諸外国からタレントを集めて作ればできるかもしれない。(上原さん)

日本が海外と戦うのは相当大変。中国でも常に日本は後回しだった。(高岡さん)

デンソーはものづくりが強みの企業なのでシリコンバレー流は合わないと考えている。資金枠を決めておき、そのなかでシナジーが生み出せそうなときに資金を投入するやりかたをとる。それもあって、投資でリターンやスピード重視は我々なかなかできていない。求めすぎると最悪のケース(人の死)に直結する。(栗山さん)

——オープンイノベーションを社内の若いメンバーに自信を持って取り組んでもらうとしたら?

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メモをとる参加者が目立ち、質問も闊達に飛び交った

(オープンイノベーションを進めている)あなた自身がかっこよくなればいい。そんな簡単に大企業は潰れない。でもやらないと潰れる可能性はある。案外チャンスはある。(上原さん)

企業には事業化企画を認めてもらうには、必ずルールやプロセスが存在する。それをチームで企画を練り上げて、越えればいい。ルールやプロセスが存在しない中での事業開発は逆に大変。(田中さん)

自ら起業するという手もある。(高岡さん)

一言でオープンイノベーションといっても、やりかたは多種多様です。大手企業なら協業先の選定を緩やかに行い、社内調整に力を注ぐ。ベンチャーならある程度自由のきくところと組みたいと願っている。何より印象的だったのは、登壇者が言い切って発言していたこと。リスクを背負う覚悟を持ちイノベーションを進めていることを伝えてくれた3時間でした。